私好みの新刊 20188

『学校のプールのヤゴのなぞ』    星 輝行写真・文  少年写真新聞社

近年,水泳時期の終わった学校プールに水が張られることが多くなった。そして都

会では生き物たちの天国にもなっている。しかし,プールは6月頃になると水はすっ

かり抜かれてしまう。そこで,近年ではせっかく棲み着いた生き物たちを救出する作

業が多くとられるようになった。子どもたちがプールに入って生き物たちの救出作戦

を展開する。この作業は子どもたちにとっても楽しい行事の一つとなっている。子ど

もたちは短パンでプールに入り,泥のたまった底をさらいながらヤゴを見つけていく。

チャンスとばかりセキレイやカエルも寄ってくる。

東京都内の学校プール救出作戦,成果はヤゴ800匹とか。アキアカネ類の他に,コ

ノシメトンボ,シオカラトンボ,イトトンボなど種類も多くいた。救出したヤゴはペ

ットボトルに入れたり,校内のビオトープに入れたり,子どもたちは楽しみながらヤ

ゴを運んでいる。著者は次に,まだかなり自然の残っている学校プールに網を入れて

泥を救ってみた。こちらでは,ヤゴは見つからず,ミズカマキリや,ヒメゲンゴロウ,

ヒメアメンボなどが見つかった。都会の学校プールとは違った種類の生き物たちだ。

ヤゴはどこへ行ったのだろうか。自然の残る地域ではトンボのヤゴたちは近くの川に

棲んでいた。わざわざプールに行かなくてもいい環境であることが分かる。

著者は,川原でミヤマサナエのヤゴを見つけ,夕刻8時前頃から刻々と変化する羽

化の様子を写真で紹介している。トンボの生息する環境についても,季節毎に紹介し

たり,公園やビオトープなどとも比べている。ギンヤンマ羽化の写真もいい。まとめ

で著者は「プールは生きものの、都会の小さなオアシスだった」と書いている。学校プ

ールは,自然の川や池がなくなった地域では大切な〈生き物の生活の場〉になっている

ことを浮かび上がらせている。       201801月 1,500 

 

『もうひとつの屋久島から』    武田剛 著    フレーベル館

 著者は豊かな自然美が多く見られる屋久島に移り住んで,美しい屋久島の自然をレポ

ートしようと考えた。しかし,ひとたび屋久島に住んでみると,屋久島の意外な負の側

面が見えだした。表の顔とはかけ離れた屋久島の意外な歴史をレポートしながら,自然

保護と観光にゆれる屋久島のこれからの姿を追い求めた。屋久島には樹齢数千年と呼ば

れている巨大な〈縄文杉〉がある。年々観光客が増え続け,〈縄文杉〉も展望デッキから

見るようになっている。それでも〈縄文杉〉の衰えが見られるという。ウミガメが産卵

する砂浜の保護もある。砂浜は多くの人に踏み固められ,照らし出されるライトの影響

でウミガメが産卵しなくなる傾向が続いている。屋久島の今の難題は増え続ける観光客

による自然破壊をどう防ぐかにかかっている。もう一つ屋久島には意外な歴史があった。

海から見ると緑の森林が生い茂る屋久島だが,一つ中に入ると全面的に伐採された広場

や土砂で埋め立てられた谷も多い。島の西部には森林が残っているが,この森林は大伐

採の流れをなんとか食い止めてきた地元の人々の努力の証である。屋久島が世界遺産に

なったのは〈屋久杉〉ではなく,屋久島西部に残っているこの森である。この森は植物

の垂直分布が残っている貴重な森として学術的に注目されている。その屋久島では,江

戸時代から始まった屋久杉伐採が延々と近年まで続けられてきた。屋久杉は緻密な樹木

なので商品価値が大きく,薩摩藩や秀吉の時代から切り出され,明治なると戦時中の資

材不足のためますます伐採が進んだ。戦後の木材不足がさらに輪をかけた。ここでやっ

と原生林伐採に疑問を唱える地元出身の青年が現れた。国に伐採計画の中止を訴えた。

島内では自然保護か,生活の保護か長い討論が続いた。そうした熱い歴史の中に今の

屋久島があることがわかる。自然保護の遺産を大切にしながら,観光と自然保護の間に

揺れ動く屋久島レポートである。          20181月  1,500

 

             新刊案内2018,08